箱根駅伝・関東学連青葉会長は精神論者ではない

結論から述べると、第84回箱根駅伝の棄権者続出現象に関して、関東学連の青葉会長が述べたとされる「情けない」の対象は学生達ではなく、指導技術や大会運営に対する反省であって、「彼は根性論で全てを片付ける前時代的人物である」という認識は根拠がない。

発端は時事通信社配信の記事である。消えそうなので多めに引用する。なお、同様のコメントはサンスポ、ライブドアなどにも同時配信されている。
史上初、3校途中棄権=指導法などに批判も−箱根駅伝時事通信) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080103-00000068-jij-spo

 大会会長でもある関東学連の青葉昌幸会長は「情けない。すべての駅伝の教科書のようになっている大会。大学で指導、勉強してほしい。(指導者は)選手を見詰め鍛えてほしい。速い選手はいるが強い選手はいなくなった」と各校の指導法を批判した。大会運営委員を務める神奈川大の大後栄治監督は「今後、給水の回数や中身などについて対策会議を開いて検討する」とした上で、「箱根駅伝は(注目の大会として)象徴化され選手の心的状態は尋常ではない。過保護にし過ぎてもいけないと思うが、そういう精神面も指導していかなければ」と指摘した。
 順大は昨年、往路、復路、総合を制し完全優勝を果たした強豪校。5区の選手は脱水症状で転倒し、大東大の選手も脱水症状からけいれんを起こした。ともに症状は軽く、治療を受けて回復。東海大の選手は走行中に右足を痛めた。

これを読んだ読者は、青葉昌幸をキーにしたブログ検索をざっと読んだ限りでは、「一所懸命頑張った選手に対して失礼だ」とか「運営サイドの立場でしか見ていない」とか、はたまた「これだから軟弱なゆとりは…」といった受け方をしているようである。私も当初は、これはひどいタグや痛ニュ入りだと思った。そしてそのレッテルを強固にするため、複数の情報ソースを引くことにしたが、結果としてはミスリードであったことが分かった。

中日スポーツ:史上初、3校が途中棄権 箱根駅伝:スポーツ(CHUNICHI Web)
http://www.chunichi.co.jp/chuspo/article/sports/news/CK2008010402076825.html

 関東学連の青葉昌幸会長は「勝利至上主義(の悪影響)が出た。選手を守るために運営管理車に乗るはずの監督が、選手のお尻をたたいてオーバーペースを招いている」と苦言。大後栄治駅伝対策委員長も「(テレビの影響で)箱根駅伝が象徴化され、選手の心情も尋常じゃなくなっている」と指摘した。

asahi.com:異例の3校棄権 勝利至上主義も影響か 箱根駅伝 - スポーツ
http://www.asahi.com/sports/spo/TKY200801030194.html

前日のレース終了後の監督会議で、復路も気温の上昇が予想されたため、各区間15キロ地点での給水以外にも、選手に伴走する管理運営車から監督が降りて、給水するのを認めるようにした。
 アクシデントが有力校に相次いだのも特徴的だ。関東学生陸上競技連盟の青葉昌幸会長は「優勝争いが激しくなり、どの大学もぎりぎりまで選手を仕上げるなど勝利至上主義の影響が出てきていると思う。監督は選手の健康管理を徹底して欲しい」と話す。今後は医師の意見も聞き、給水の回数や中身など対策を協議する方針だ。

東海大棄権10区荒川じん帯損傷/箱根駅伝 - 箱根駅伝 : nikkansports.com
http://www.nikkansports.com/sports/hakone-ekiden/2008/p-sp-tp0-20080104-303012.html

大会の青葉昌幸会長は「これだけ注目されると、体調が悪くても走ってしまう選手もいる」と指摘。

波:箱根駅伝 途中棄権、最多3校 急速な走力アップ、負担大きく - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/enta/sports/general/track/archive/news/2008/01/20080104ddm035070057000c.html

 近年の急速なレベルアップが選手の体調管理に響くという声は多い。大東大の只隈伸也監督は「年間を通じてハードな練習をしないと戦えない。ギリギリの状態。仕方がないが非常に怖い」と明かす。そうした現状に、関東学連の青葉昌幸会長は「勝利至上でなく、もっときめ細かく選手を育てるべきだ」と警鐘を鳴らす。各校は改めて、慎重な取り組みを求められている。

踏切で足くじく・好天も災い…反省含む箱根駅伝3校棄権 : 箱根駅伝 : スポーツ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/sports/ekiden2008/news/20080103i112.htm?from=navr

 大東大の監督として箱根駅伝優勝経験を持つ関東学生陸上競技連盟の青葉昌幸会長は「今はどのチームも優勝やシード権を狙ってギリギリの調整をしている。調整ミスがあったのかもしれない。好天も選手には災いした」と指摘。「箱根駅伝を選手をつぶす大会にしてはいけない。各大学には今回の反省を次に生かして欲しい」と話した。

これらのソースを総合すると、青葉会長の意見は「勝利至上主義のため、選手の能力を超えたオーバーペースでの走行がアクシデントの遠因となっている。指導者は選手の能力を正しく把握して、適切なペース配分や体調管理を徹底するべきである。監督不行届が危険の根本的原因であり、選手の未来を案じて指導しなければならない」と読める。これらの言葉からは、選手に対する叱責は全くと言っていいほど伺えず、指導者への苦言に一貫しているように思える。

その仮説を裏付けるコラムがある。長いので一部分のみを引用するが、引用バイアスを避けるためにも是非全文を通読して欲しい。
スポーツナビ | 箱根駅伝 第84回(2008年)|箱根を制するための鉄則とは (1/2) 青葉昌幸会長の区間配置コラム
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/other/athletic/ekiden/hakone/84th/topics/200712/at00015846.html

 前々回の第82回大会では首位の順大が中継所3キロ手前でアクシデントを起こしてしてしまいました。8区は湘南の風が追い風になるので、どうしてもスピードが出やすくオーバーペース気味になり、体熱を奪われます。そして遊行寺の坂を上りきると、時間的に太陽の日差しが強くなり、そうなると脱水症状になりやすいので、新人に走らせるときは注意が必要ですね。

――箱根駅伝のブレーキは体調不良によるものが多いと聞きます。監督は選手の体調はどのように管理していますか?

 そのことに関しては選手と“いたちごっこ”ですね。選手の体調管理をビシっとやらなければいけないのが監督です。年末には年賀状を書くでしょう? 25日くらいまでに出さないと元日までに届かないので、選手の中には「僕は何区を走ります」と書いて20日ごろに家族や恩師などに出しちゃうんですよね。そうすると、具合が悪くなってもスタンドプレーで私の前では元気に腕を振って走るんです。それで騙されちゃう監督がいっぱいいるんですよね。僕も一番得意だった上りで大失敗したことがあります。その選手は微熱があって風邪の症状だったようでブレーキしてしまいました。今、各チームの監督は選手と心理戦ですね。くれぐれもごまかされないように(笑)!
 区間の適材適所も含めて、監督の調整力、起用によって、それぞれのチーム順位が決まるといっても過言ではありません。それくらい監督の力が要求されます。できる監督は、ちょっと力が足りない選手層でも、それなりにつくりあげてしましますからね。

ここでは最も象徴的な部分のみを引用したが、徹底して選手とのコミュニケーションを図り、適正を深く見極め、体調の悪い選手には指導者としてブレーキを踏んであげることによって、大東大は黄金時代を築いたのだ、と分かった。野村克也ID野球なら、青葉昌幸はID駅伝であると私は思う。

ここで、当初の発言に立ち返ってみよう。

「情けない。すべての駅伝の教科書のようになっている大会。大学で指導、勉強してほしい。(指導者は)選手を見詰め鍛えてほしい。速い選手はいるが強い選手はいなくなった」と各校の指導法を批判した。

つまり、「(前途ある学生達に悔しい思いをさせてしまい、指導側の最高責任者として)情けない。(距離が長く高低差の激しい箱根駅伝は、体調管理によりシビアになるべきで)すべての駅伝の教科書のようになっている大会。(指導者は体調管理や区間配置を)大学で指導、勉強してほしい。(指導者は)選手を見詰め鍛えてほしい。速い選手はいるが強い選手はいなくなった(だから、より学生に適した指導方法を考えて欲しい)」というのが私が推測する本当の意味である。

そもそも、見出しにも括弧の後にも「指導法を批判」とあるのに、いつの間にか選手批判にすげ替えられている傾向があるのは完全なミスリードである。

もう少し青葉発言を紐解いてみよう。
選手育成の秘訣披露 : 特集 : 箱根駅伝 : スポーツ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/sports/ekiden2007/feature/ek_fe_20061014_01.htm

 鈴木 私も今、女子を指導していますが、同じように体重管理をしたり、毎朝、基礎体温を測らせたりしています。体重がしぼられてくると女性特有の体の変化が起きてきます。基礎体温を毎日測って変化をみることが大事になります。骨密度も年に2回測定し、密度の薄い個所があれば疲労骨折につながるので注意するようにします。不安をなるべく取り除き、選手としてしっかりと競技に集中させてあげることが必要です。練習でも何のための練習なのか理解させてトレーニングに取り組むようにしています。

 青葉 女子の指導は私に不向きだということがよく分かりました。こんなに緻密(ちみつ)に、科学的に指導するのはとてもできない。

一見すると、「青葉指導法は非科学的トレーニングだ」と誤解しがちだがそうではない。女子には女子特有の体調管理方法があるため、男子のそれをそのまま適用することはできない。男子は生理がないため体調を一定に保ちやすく、その分限られた指導リソースを適正把握に注ぐことができる。心理面での駆け引きも必要であり、アナログなコミュニケーションから見極めなければならない。

関東学連・青葉会長「16人登録制が調整甘くする」…箱根駅伝最終日:その他:スポーツ:スポーツ報知
http://hochi.yomiuri.co.jp/sports/etc/news/20080104-OHT1T00046.htm

関東学連の青葉昌幸会長(65)は「16人が登録できることで、調整が甘くなるのでは」と分析し、「将来的にはエントリー人数を減らしたい」と提案した。

これはちょっと?がつく発言だ。確率的にはエントリー人数が多ければ多いほど、体調が良い10人を選択できる可能性が上がる。一方、体調は良いが力量が劣るサブメンバーが、体調が悪いが力量のあるレギュラーと比較され、オーバーペースを招く危険性もある。この発言の本来の意図は、監督の目の届かない選手が出てくることを危惧してのものであることは明らかだが、エントリー人数を減らすことで対策となるかどうかは今後の検討や検証が必要であろう。


この機会に駅伝について調べていくうちに、選手層の厚さ、給水の回数とミネラルウォーター制限、区間配置など、様々な問題があることが分かったが、長くなったので日を改めることにする。最後に、「箱根駅伝監督トークバトル」という事前イベントでの青葉会長の発言を引用して締める。

あつの至福生活(^^)/: 第84回箱根駅伝監督トークバトル
http://atsu-sifukuseikatu.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/post_f5c0.html

最後に。。青葉さんは『ベストコンディションで臨んで、勝ち負けだけでなく箱根での熱走・激走を今の中学生・高校生に魅せて欲しい。』と言ってました。